巷(ちまた)の学校blog

学校等では教わらなかったことを学び,賢い市民生活(家庭,仕事など)を営むためのブログです。ビジネスにも役立つかも。時には,就職や小論文にも言及。

人はなぜ会社を辞めるのか?転職の8割は「不満」が動機!

 以下は,井上佐保子氏による取材・文のほぼほぼコピペです。

 「このままこの会社にいていいのだろうか」と不安になり,「転職」の二文字が頭をよぎる……。組織の一員として働いていれば,誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。仕事人生が長くなった今,転職はARIA世代(40~50代)にとっても無縁ではありません。『働くみんなの必修講義 転職学』の共著者である立教大学経営学部教授の中原淳さんとパーソル総合研究所上席主任研究員の小林祐児さんに,「転職のプロセス」を科学的なアプローチでひもとく「転職学」について学びます。今回の講師は中原さんです。

中原 淳 立教大学経営学部教授

 企業・組織における人材開発・組織開発を研究。2020年から立教大学大学院経営学専攻に新設される「リーダーシップ開発コース」プログラムにも携わる。経営学習研究所代表理事NPO法人カタリバ理事,フローレンス理事。著書に『働く大人のための「学び」の教科書』(かんき出版),『残業学』(光文社新書)など多数。

(1)転職の8割は「不満」が動機 人はなぜ会社を辞めるのか ←今回はココ
(2)転職活動に失敗しないために 鍵は「ラーニング思考」
(3)転職後,新しい職場に早くなじむために取るべき行動とは

なぜ私たちは「転職学」を学ぶ必要があるのか

―― 「転職学」とは耳慣れない言葉です。どのような研究なのですか?

中原淳さん(以下,中原) 「なぜ人は離職するのか」「どのように転職すればいいのか」「どのように新たな組織に参入すればいいのか」という3つのプロセスを一気通貫で取り扱う,「転職」の総合デパートのような研究です。

 ひと昔前まで,転職は好ましくないものと思われていました。「一つの会社で長く働くこと」がよしとされていたからです。ところが昨今では,そうした転職のイメージも変わってきています。若い世代の中では,転職もキャリアの選択肢の一つと捉えられるようになっていますし,40~50代のミドル世代であっても「人生100年時代,仕事人生も長くなるし,今から転職の可能性もあるかも」と転職を意識しながら働く人が増えてきました。転職希望者の比率も増加傾向にあり,転職が以前より格段に身近なものになってきています。

 とはいえ,転職が人生の一大事であることに変わりはありません。転職の失敗は人生に大ダメージを与えます。また,そもそも「しなくてもよい転職」なら「転職しない」にこしたことはありません。社会には,さまざまな「転職あおり本」か「転職強者の本」があふれていますが,私たちは,それらの書籍とは一線を画したいと思います。

 なにより転職の難しさは,後悔しても,基本的には元に戻れないところにあります。だからこそ「今,辞めるべきなのか。どのように転職活動をすべきか。どうすれば入社後うまくなじめるのか」をしっかりと学んだ上で慎重に進めるべきですが,なぜか世の中には,そうした知識を教えてくれる人もいなければ,それを学ぶ場もありません。多くの方々が,今後,悩むであろう「みんなの課題」に対する処方箋を提供させていただきたい,という思いで今回,「転職学」について本にまとめました。

 ちなみに,転職に関わる情報はちまたにあふれていますが,その大部分が転職活動にまつわる話で,内定獲得がゴールとなっています。しかし,実際に転職する個人にとっては,前職を辞め,転職活動をして,新しい職場で1~2年して「転職してよかった」となって初めて「転職成功!」となるわけです。そこで私はパーソル総合研究所と共同で,離職,転職,定着のプロセスを一気通貫する研究として「転職学」を立ち上げ,数年間にわたり,働く人約1万2000人への大規模調査を行い,さまざまな知見を得ました。これらはすべての働く人たちに役立つものと考えています。

―― おっしゃる通り,最近ではARIA世代でも転職を考えている人は増えている印象があります。

中原 若い人ほど転職意向が強いのは確かですが,今回の調査から,仕事人生において離職の危機は大きく2回あることが分かりました。

中原 日本のビジネスパーソンは,仕事人生において2度の「モヤモヤ期」を経験します。第1次モヤモヤ期は30歳前後。「他の会社に行ったらもっと成長できるのではないか。もっと自分らしい仕事ができるのではないか」と悩む時期です。そしてより深刻なのが,40歳前後に訪れる第2次モヤモヤ期です。どこまで昇進できるのかなど,自分のキャリアのゴールが見えてきたところで「このままでいいのか?」と悩むのです。

 その後,40代後半や50代以降は,求人自体が少なくなっていきますし,転職後に同レベルの収入を確保することが難しくなってくることもあって,組織から飛び出しにくくなり,不満があっても「このまま働き続けたい」という意向が高まっていきます。

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大規模調査で見えてきた「転職の方程式」

―― 会社を辞める動機には,何か傾向はあるのでしょうか。

中原 人はどのようなときに離職・転職を考えるのか。そのメカニズムを大規模調査から探ってみたところ,次のような「転職の方程式」が導き出されました。

不満(Dissatisfaction)×転職可能性(Employability)>転職への抵抗感(Resistance)

 まず,会社や仕事,置かれた状況への「不満」があります。不満が高まるほど辞めたい気持ちが高まります。そこに「転職可能性(現在とは違う会社や仕事に移れる可能性)」が掛け合わされる。それらが,転職活動の面倒臭さやパートナーからの抵抗,収入についての不安といった「転職への抵抗感」よりも勝れば,離職・転職を考えるようになる,というわけです。

 一般的に年齢が高くなるほど「転職可能性」は低くなりますし,子どもの教育費や住宅ローンの支払いといった事情もあって安定志向になってきますので,「転職への抵抗感」が高まり,転職意向が弱くなっていきます。ちなみに「転職への抵抗感」には男女差があり,男性は今より低い役職には就きたくないといった「地位の安定」を重視し,女性は子どもの存在が転職への抵抗感を強めるなど「家庭の安定」を重視する傾向にあります。

―― 転職の動機は不満だけなのでしょうか? 「好きなことを仕事にしたい」「新たなチャレンジをしたい」といったポジティブな動機もあるかと思うのですが。

中原 残念ながら日本では転職の8割が,なんらかの「不満」が動機となっています。これは日本特有の傾向です。理由としては,日本ではまだまだ長期雇用が前提となっていて,欧米に比べると転職が一般的ではないこと,そもそも「自分の能力を高めるために職場を選ぶ」といったキャリア意識が低く,不満があっても組織の中でぎりぎりまでとどまってしまうことが考えられます。

働く意欲を減退させる4つの「職場の重さ」とは

―― 離職・転職につながりやすい「不満」とは具体的にはどのようなものでしょうか?

中原 「上司や同僚からのハラスメントがある」「サービス残業が多い」「給料が安い」などさまざまですが,不満だけでは人は会社を辞めません。不満があって,それが変わる見込みがなく,未来が描けなくなるときに「辞めたい」という気持ちが高まるのです。この「不満の変わらなさ」につながるのが,働く意欲を減退させてしまう組織的な要因を表す「職場の重さ」という,私たちの本独自の概念です。

 我々は「職場の重さ」につながる要因を4つに分けました。さぼっている人がいる,一部の人しか働いていない,有能な人がいないといった「人の重さ」,オフィスが古い,職場環境が変わらないなどの「場の重さ」,会議が長い,誰も発言しない,無駄な会議が多いといった「会議の重さ」,そして,前例踏襲,新しいことができない,物事が決まらない・進まないといった「意思決定の重さ」です。これらの中でも特に「ああ,この職場,この状況は変わらないな……」と人をげんなりさせるのが,「意思決定の重さ」です。

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―― 分かる気がします……。とはいえ,転職に踏み出すには勇気がいります。辞めたいと思っていても,よほどの事情が無いと辞めるところまではいかないのでは?

中原 おっしゃる通りです。なにか1つ不満があって,それが解消される見込みがないからといって,それだけですぐに辞めるわけではありません。上司のパワハラ,給料が安い,オフィスが遠い……などさまざまな「変わりそうにない不満」が重なり合っていき,最後にダメ押しとなる決定的な要因がもたらされた時に離職を決意するのです。これを我々は複数の「不満のチーズ」を串刺ししていき,最後に串が貫通してしまうことをイメージし,「離職のスイスチーズ・モデル」と呼んでいます。

中原 では,「最後のダメ押し」となる要因はどのようなものでしょうか。調査から見えてきたのは,下の図のように「心身の健康の悪化」が一番多く,続いて「同僚の退職」「労働時間の増加」となっています。心身の健康が悪化するまで辞めずに我慢している人も少なくない,というのが日本の転職の現実です。

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まずは今の自分や組織の状態を冷静に見つめ直して

―― なんとか「心身の健康が悪化」する前には転職したいところですよね。

中原 自分の人生,自分のキャリアは自分で決めるべきですし,それはできるだけ早いうちから考えておくべきです。先日,さまざまな日本企業の社員数万人を対象とした調査結果を見て衝撃を受けました。「大きな不満を抱えているのに転職はしたくない」という「しがみつき」状態にある社員が50%を占めるという会社も少なくないのです。なんとも切ない話です。心身の健康を害する前に,働きがいのある仕事,職場を選ぶのも選択の1つ,「Your choice」です。

 とはいえ,転職のリスクは高いですし,仕事,職場が変わることのストレスも大きい。無理には勧めません。離職・転職を考える前に,まずは働く個人として,自分が今どんな不満を抱えているのか,組織がどんな状態にあるのかを冷静に見つめ直し,変えられるものと変えられないものに分けて考えてみてください。その上で,辞めるのか辞めないのかを選択してください。もしも辞めない決断をしたのであれば,変えられるものを変える努力してみてください。「今の会社に居続ける」と決めることもまた,大切なあなたの人生の選択なのです。

お読み頂き,有り難うございました<(_ _)>