以下は,現代ビジネス提供記事(「週刊現代」2023年2月25日号より)のほぼほぼコピペです。最後に≪私感≫を付け加えました。
現実から目をそらした試算
日銀の黒田東彦総裁と雨宮正佳副総裁の交代が迫っている。トップの交代によって金融政策が転換され,今後,長期金利が徐々に上昇していく可能性が高いとみられる。
そうなった場合に,大きな影響を受けるのが国の財政だ。'23年度予算案は約115兆円程度しかないが,国の借金は1000兆円超もある。もし金利が3%に上昇すれば,利払い費だけで30兆円に達してしまう。
ところが,政府は厳しい現実から目を逸らし続けている。
筆者が問題視しているのは,経済財政諮問会議が公表している「中長期の経済財政に関する試算」(以下「試算」)だ。この試算は年に2回(7月頃と1月頃),内閣府が推計を行い,「この先,約10年の財政の姿」を国民に示すものだ。'23年1月に公表された最新版では,物価や長期金利の上昇,さらには防衛費増額の影響が試算にどう反映されるかに専門家の関心が高まっていた。
しかし蓋を開けてみたら,試算の内容は残念なものだったと言わざるを得ない。試算では,「高成長(成長実現)ケース」「低成長(ベースライン)ケース」の2つの推計が示されており,どちらも試算の前提となる「消費者物価指数」の上昇率は'23年度で1.7%となっている。
実はこれは現実とは大きく乖離した数字だ。物価は上昇し続けており,たとえば総務省が公表している東京都区部の消費者物価指数(1月分の速報値)は,前年同月比4.4%の上昇となっている。伸び率は前月の3.9%から拡大した。
「甘い推計」とツケ
試算が前提にしている「長期金利」も,'23年度で0.4%と甘い数字が使われている。高い物価上昇率が続くなか,日銀が政策転換すれば長期金利は徐々に上昇していく可能性が高い。エコノミストのなかには「いま金利が正常化された場合,現状0.5%程度の水準にある長期金利は1.5%程度に上昇する」と予測している者も多い。
また長期金利の予測は国債利回りと償還期間との関係を示す「イールドカーブ」(利回り曲線)から読み取ることもできる。イールドカーブをもとにした場合も,長期金利は少なくとも0.9%程度の水準となるはずだ。
一方,財政にダメージを与える支出は膨らむばかりだ。防衛費はGDP比2%を目標に,'23年度から'27年度の5年間で約43兆円もの支出を行う予定となっている。
政府の計画では,「歳出改革」「決算剰余金の活用」「防衛力強化資金」で年間約3兆円,法人税やたばこ税などの増税で年間約1兆円を賄うとしている。前者の約3兆円は恒久財源ではないのだが,試算では「国債発行をせずに財源を賄われている」と仮定する「ごまかし」まで行われている。
試算では,'32年度の財政赤字(国・地方合計)が9.6兆円(対GDP比で1.6%)に収まるとしている。
しかしこれまで見てきたように,この数字は物価上昇率や長期金利を低く見積もった「甘い推計」によってはじき出されたものにすぎない。財政的リスクが将来に先送りされる場合,そのツケを払うことになるのは我々国民だ。テレビや新聞も,試算の前提を含め,もっと精査して国民に正しい情報を提供する必要があるはずだ。
≪その後,間もなく日銀の総裁等は交代しましたが,未だに「推計・試算」には変化がないようです≫
お読み頂き,有り難うございました<(_ _)>