巷(ちまた)の学校blog

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長編・遺言書を書いてみた(50代・子なし夫婦の勘所)

 以下は,株式会社生活設計塾クルー ファイナンシャルプランナー 深田晶恵氏による記事のほぼほぼコピペです。最後に≪補足≫を記しました。

 コロナ禍を受けて,遺言書を作っておきたいと考える人が増えているそうだ。ファイナンシャルプランナー(FP)という仕事柄,筆者もかねて作成したいと考えており,ついに10月下旬に初の遺言書をしたためた。2019年7月に自筆で書く遺言を法務局で保管してくれる制度(自筆証書遺言書保管制度)がスタートしたので,それを利用してみた。相続専門の税理士さんからもらったアドバイスも交えて,自筆証書遺言の勘所をお伝えしたい。

コロナに対する恐怖感で遺言書を作る人が急増?

 仕事仲間の税理士や信託銀行に勤めている人によると,新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから,遺言書を作っておきたいと考える人が増えたそうだ。特に,死亡者が増加した以降は作成依頼が多かったが,自粛期間中は対面での接客ができずに対応に苦慮したという。

 自分の手を動かす作業は,ファイナンシャルプランナー(FP)としてコンサルティングを受けにくる相談者にも,記事を読んでくれる読者にもきっと役に立つと考えて,積極的にいろいろやってみることにしている。

 また,相談者から遺言書作成について聞かれることもあり,以前から「遺言書を書いてみたい」と思っていた。そうはいっても締め切りのない作業は,後回しになりがち。重い腰を上げるきっかけは,昨年父が亡くなった際に相続手続きをしたとき,子どものいない私は遺言書があった方がいいと実感したことだ。

 私が死亡すると法定相続人は,北海道在住の母(81歳)と夫だ。通常の順番通りなら母が先に亡くなるだろうが,万一,私が先に死亡すると,夫は私の金融資産の相続をするために遺産分割協議書を作り,母からハンコをもらわなくてはならない。今あるお金はほとんどが結婚後にFPになって貯めたものだから,夫が100%相続するのが筋だと思う。

 しかし,「そういうニュアンスって,何も言わなくても老親に通じるものなのかなぁ」と,ほんのちょっぴり不安になった。実際,最近は80歳を超えている実母,それに義理の両親の言動にも驚くことが増えている。まったく予想もしないことを言い出すことがあるからだ。

 私は長寿のDNAを持っていそうなので(祖母は105歳で健在),母よりも夫よりも長生きすると覚悟しているが,人生何が起こるかわからない。数年に一度は,仕事関係の知人が突然亡くなったという訃報を受けることもある。自分に突然何かあったとき,夫が嫌な思いをしなくてもいいように,先延ばしにせずに遺言書を書いてみることにした。それに,このように原稿のネタにもなる。

 折しも2021年7月に自筆で書く遺言を法務局で保管してくれる制度(自筆証書遺言書保管制度)がスタートしたので,それを利用してみることした。

 私は53歳。読者のみなさんは,50代で遺言を書くには早いと思うかもしれない。しかし,専門家の間では,子どもがいない人は年齢にかかわらず遺言書を書いておいた方がいいというのが通説だ。

 実際にやってみて,自筆証書遺言は手軽にできるけれど,間違いがないようにするには幾つかのポイントを押さえることが欠かせないと感じた。今回は「遺言書作成&法務局に預けるまでの体験レポート」をお届けしよう。

 子どもがいない人,シングルの人が自分の遺言書を書くケース以外に,親に書いてもらいたい人にも参考になると思うので,ぜひお読みいただきたい。

自筆証書遺言と公正証書遺言,どちらがいい?

 体験レポートの前に遺言の種類について見てみる。

 遺言書の種類には,「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがある。このうち「秘密証書遺言」を作成する人は非常に少ないため,ここでは詳細を省略し,他の2つについて取り上げる。

公正証書遺言】

 公証人に遺言内容を述べ,公正証書として作成してもらうやり方で,公証役場が保管する。紛失したり改ざんされたりするリスクのことを考えると,公証役場で預かってくれるのは安心だ。何より法律の専門家が作成するため,形式などに不備が発生しないのがメリットである。一方,専門家が関与するため,結構な費用がかかる。

【自筆証書遺言】

 文字通り,遺言者(遺言を作成する人)が全文を手書きするタイプ。専門家の関与がない分,手軽に作成でき,費用がかからないのがメリット。民法の改正により,2019年1月13日以降は財産の一覧である「財産目録」についてパソコンでの作成などが認められ,全文自筆でなくともいいように緩和された。

 手軽に作成できる半面,要式に間違いがあると法的に無効になる可能性がある。さらに,公証役場が預かってくれる公正証書遺言と違って,自宅に保管していると紛失や改ざんの可能性があるのがデメリットといえる。死後,裁判所で検認の手続きも必要だ。

 ところが,法務局による自筆証書遺言の保管制度がスタートすることで,自宅保管のデメリットや裁判所での検認の手間が解消された。法務局での保管手数料は,1件につき3900円と安価である。

 ただ,保管制度のスタートにより,自筆証書遺言のデメリットの大半が解消されても,遺言書作成に詳しい専門家の多くは公正証書遺言を勧める。その理由は,保管制度には,内容に不備があっても法務局で指摘を受ける仕組みはないからだ。死後のトラブルを防ぐことが遺言の目的だとすると,遺言が無効になるような要式不備を避けるためには公正証書遺言が安心だという。

 この数年,遺言作成のセミナーをいくつか聴講し,ほとんどの専門家が公正証書遺言を勧める理由を聞いて,なるほどその通りと思った。それでも私が自筆証書遺言を選んだのは,まだ50代であることと費用を抑えたいという2点の理由からだ。

 

自筆証書遺言なら,公正証書遺言より圧倒的にコストが安く済む!

 前述の通り,現在の私の法定相続人は,夫と母の2人。母が亡くなると,法定相続人は夫と姉(北海道在住)に変わり,姉が亡くなると夫と2人の姉の子になる。

 子どもがいないため,子どものいる人に比べて法定相続人にバリエーションがある。あと50年くらい生きるとすると,相続人の誰かが亡くなるたびに何度も遺言書を書き換える必要が発生する。

 公正証書遺言の作成手数料は遺産額に対応する形で決まり,公証役場へ直接行く場合,平均5万~15万円程度かかるという。公正証書遺言にすると,法定相続人の誰かが亡くなるたびに万円単位の費用がかかる!それは嫌なので自筆証書遺言を選んだ。自筆する場合にはコストはかからないし,法務局に預ける保管手数料は3900円。この程度なら何度かかったとしても大きな負担ではない。

 遺言書を書くに当たり,「自筆証書遺言を書く」ことを解説した書籍を数冊購入して読んでみた。文例が多く紹介され,法務局での保管制度についても言及している,出版日が新しい本を選ぶ。

 解説本を読んでみて自分が書きたいことのイメージはできたが,やはり内容の不備が怖い。そこで懇意にしている税理士さんに内容チェックの有料コンサルティングをお願いすることにした。相続を専門とする人なので実務に詳しく,頼りになる。

 次のような手順で相談に乗ってもらった。

◆状況と質問事項をメモにまとめる

・今の相続人,今後相続人になり得る人をまとめ,相続財産の内訳を明記

・遺言書を書きたいと思ったきっかけや目的を明記

・相続に関する私の意思

・生命保険を一部活用すべきか

・財産目録はつけたくないが,つけるべきかどうか

◆遺言書の文案を2通作る

文案1は,母に少し遺す分について生命保険を活用するプラン。

文案2は,母に遺す分は保険ではなく定期預金を使うプラン。

 この段階でいったん税理士さんに見てもらうことに。

 私が疑問に思っていたことに答えてもらい,文案は2がいいとアドバイスを受ける(わが家の場合は保険ではなく預金で,とのアドバイスだが,ケースバイケースなので他の人にも当てはまるわけではない)。

 財産目録をつけたくない理由は,FPという職業柄,多種類の金融商品を持っているから。今後新たに購入するものもあるだろうし,不要なものは解約をする。時間の経過とともに口座の内訳が変化していくことが大いに考えられる。

 そのことを伝えると,財産目録はつけずに,母に遺す分(定期預金,銀行名と口座番号)を明記し,それ以外をすべて夫に遺すと書くといいとのアドバイスを受けた。なるほど,クリアになった。

 内容や文章も間違いがないようにブラッシュアップしてくれた。それを受けて完成版をパソコンで作成して最終チェックを受ける。OKが出たので,自筆で遺言書を書く。もう何年も(何十年も?)手書きで長い文章を書いたことがないため,3回ほど書き直して,やっと完成。手が痛い…。

 法務局に予約を取り,10月下旬に預けに行った。保管制度を利用すること自体は,30分くらいであっさり終了。ちなみに保管制度を利用する人は多くないようで予約は取り放題,当日もガラガラだった。

遺言書がない方がいいケースもある,相続税対策を併せて考えるべき場合も

 遺言書作成の体験レポートを書いておきながら今更であるが,すべての人が遺言書を書いておくべきだとは思っていない。

 例えば,昨年亡くなった父は遺言書を遺していなかったが,母と姉と3人で話し合い,ものの数分で遺産分割について決めることができた。遺言書があったら遺された3人の意思を100%は反映できなかったかもしれないので,「なくて良かったね!」というのが私たちの感想だ。

 東京都・世田谷区に広めの一戸建ての実家がある友人は,父親の遺言書のせいで,2次相続(母親が亡くなったとき)に結構な相続税がかかりそうだと愚痴をこぼしていた。金融資産もかなりの金額があり,父親が妻への思いたっぷりにほとんどの財産を母親に遺す遺言だったようだが,相続の税金対策の観点はゼロだったという。資産家が遺言書を書くなら,相続税対策も併せて考えたい。

 遺言書を書いておいた方がいいケースは,私のように子どもがいない人,それから再婚で前妻(または前夫)との子どもがいる人だ。離婚をすると,別れた相手は法定相続人ではなくなるが,子どもは親権を手放しても法定相続人だ。自分が亡き後,配偶者や子どもが困らないように遺言書を残しておきたい。

 多くの専門家が言う通り,公正証書遺言なら有効性が担保されるが,自筆証書遺言にするなら,私のように専門家チェック(有料)をするプロセスを加える方がいいだろう。

≪補足≫

 上記には,自筆証書遺言の要件がありませんでした。要件①自筆によること,②作成年月日,③署名捺印です。これらの要件には例外もありますが,要件のすべてを具備するべきでしょう。すべてを具備した最も簡潔な「すべての財産は子の○○に相続させる」という遺言書(検認済)を拝見したことがあります。もちろん有効です。その証拠に家裁の検認もあります。相続人の方は,その遺言書で相続手続をなさいました。

 お正月に,遺言書を書いてみるのも,時間の有効利用の一つかもしれません。被相続人の意思は勿論尊重されるべきですが,相続人の相続手続はたいへんです。また,場合によっては「争族」を生むことにもなりかねません。

お読み頂き,有り難うございました。皆様,よいお年をお迎え下さい<(_ _)>