巷(ちまた)の学校blog

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実質賃金下落を放置する政治と日銀

 以下は,DIAMOND online提供記事(野口悠紀雄氏による)のほぼほぼコピペです。最後に≪私感≫を付け加えました。

止まらぬ円安,物価高騰で実質賃金が下落している

 円安は一時1ドル144円台まで進み,輸入原材料を中心に物価上昇が続いている。

 日本銀行は今月21,22日開く金融政策決定会合でも「緩和維持」を変えないと見られるが,物価高騰のもとで実質賃金の下落が続いているのに,政治の動きは野党も含めて鈍い。

 毎月勤労統計調査で,実質賃金の推移を見ると,2022年4,5,6月の対前年同月比は,-1.7%,-1.8%,-0.6%と下落が続いている。

 14年には,消費税率引き上げで実質賃金が下落した。また20年には,コロナ禍の影響で低下したが,21年にはそれから回復し,22年3月までは実質賃金の対前年比がプラスになった。

 しかし,22年4月以降,物価が上昇する中で名目賃金が伸びないために,再び実質賃金が低下している。実質賃金指数は,12年に比べると10%程度低下した。

22年4~6月の雇用者報酬も前年比伸び率はマイナス

 雇用者報酬(注1)の対前年同期比は,2021年4~6月期,7~9月期には3%台になったのだが,輸入物価の高騰が始まった21年10~12月期に1.1%に下落し,22年4~6月期には,名目の対前年同期比が上昇したにもかかわらず,マイナスになった。

 なお,14年4~6月期から15年1~3月期までは消費税率引き上げの影響で,名目雇用者報酬伸び率と実質雇用者報酬伸び率が乖離している。

 しかし,それ以外の期間では両者はほぼ同じ値だった。両者がこのように乖離したのはここに示す期間では初めての現象だ。

 また,22年4~6月月期に実質雇用者報酬の伸び率が絶対値で1%を超えるマイナスになったのは,上記の消費増税の影響がでた期間と21年7~9月期,10~12月期を除けば初めてのことだ。

注1:「雇用者報酬」とは,民間企業のみならず,国・地方自治体,公共・社会サービスなども含む生産活動から生じた付加価値のうち,雇用者に分配された額。現金給与や現物給与の賃金・俸給のほか,社会保険の雇用主負担分も含まれる。ただし,個人事業主と無給の家族従事者は除かれる。

原価高騰を転嫁し企業利益は好調,実質賃金とは著しい格差

 一方で企業の利益は著しい増加を示している。

 上場企業のうち,2022年3月期に過去最高益となった企業の比率は30%になった。商社は大手7社がいずれも最高益になった。また大手製造業も好調だった。

 この傾向は,4~6月期にも続いている。純利益が過去最高となった企業が全体の約4分の1を占め,商社や石油,鉄鋼などが資源高の恩恵を受けている。

 以上のことは,法人企業統計調査によっても確かめられる。

 4~6月期における全産業(金融機関を除く)の営業利益,経常利益は,対前年比で,それぞれ13.07%,17.63%となった。輸入物価の高騰による原価の増加を売上げに転嫁しているからだ。

 このように,実質賃金と企業利益の動向の間に著しい格差が生まれている。

 こうした現象はこれまでも見られたものだが,最近は,それが特に明確な形で現れている。

輸入物価上昇の約半分は円安による影響

 実質賃金の下落と企業利益の増加の背景には,輸入物価上昇と円安加速がある。

 2022年7月の輸入物価指数の対前年同月比をみると,契約通貨ベースでは25.4%だが,円ベースでは48.0%になっている。

 つまり,仮に円安がなければ,輸入物価上昇率は48%ではなく,その約半分の25.4%に収まっていたはずなのだ。

 輸入物価の高騰が顕著になり始めた21年10月では,輸入物価の対前年同月比は,契約通貨ベースで29.4%,円ベースで36.5%だった。

 つまり,この時点では,輸入物価上昇に占める円安の影響は2割程度でしかなかった。

 22年3月以降の顕著な円安の進行によって,物価上昇での円安の比重が増大したのだ。

 海外物価の高騰は日本では如何ともしがたいが,為替レートはコントロールできる。

 仮に日本銀行が金融政策を転換して金利上昇を認めれば,円安の進行は食い止められる。そして,物価高騰や実質賃金低下も半分程度に食い止められるはずだ。

 それにもかかわらず日銀が動かないのは,企業の利益を重視して実質賃金下落を問題視していないからだ。

主要国の中銀は利上げ,マイナス金利続けるのは日銀だけに

 8月にはいったん収まった円安が9月になって再び加速したのは,米連邦準備制度理事会FRB)のジェローム・パウエル議長のジャクソンホール演説で示されたように,アメリカが断固として金利引き上げを続けるからだ。

 その結果,日米間の金利差が拡大し円安が進行する。

 世界主要国の中央銀行は,すでにFRBの政策に対応して,金利の引き上げを行っている。

 欧州中央銀行(ECB)は7月の理事会で11年ぶりに利上げを決め,マイナス金利から脱却した。そして9月8日の理事会で,政策金利を0.5%から1.25%へと0.75%引き上げた。

 カナダ中央銀行は,7日に0.75%の利上げを発表した。

 9月20~21日開かれるFOMC連邦公開市場委員会)では,FRBが3会合連続となる0.75%の利上げに踏み切る可能性が強い。

 スウェーデンも同様の利上げを行う可能性がある。

 こうして,マイナス金利を継続するのは日銀だけになった。

円安続けば今後も実質賃金低下,日本の労働者は見捨てられている

 政府は第二次の物価高対策を取りまとめた。

 ガソリン補助金の期限を12月末に延長し,輸入小麦の政府売り渡し価格を据え置く。住民税非課税世帯を対象に1世帯5万円を給付するというものだ。

 しかし,これらは問題の原因に対処するものでなく,問題を隠蔽しようとする対処療法に過ぎない。

 相対価格の変化による市場の調整機能を殺してしまうという意味でも,問題だ。ガソリンなど相対価格が上昇している財やサービスへの支出は抑制すべきだというのが,現在市場が発しているシグナルだ。

 必要とされるのは,問題の根源である円安に対処することだ。

 それを放置して物価対策だと言うのは,アクセルとブレーキを同時に踏んでいるのと同じであり,正視に耐えない状態だ。

 本来であれば,野党が追及すべきだが,何の動きもない。

 日本には,企業(とりわけ大企業)の立場からの経済政策を求める政治勢力は存在するが,労働者の立場からの経済政策を求める政治勢力は存在しない。

 連合が本来はその役割を果たすべきなのだが,そうはなっていない。

 実質賃金の下落問題は,7月の参議院選挙で最大の論点になるべきだった。そして野党からは,法人税率の臨時引き上げといった提案が行われてもおかしくなかった。

 しかし,実際には上滑りの物価対策しか議論されなかった。

 円安が続けばこれからも実質賃金が低下を続けることはほぼ確実だ。

 日銀は,賃金が安定的に上昇するのでないかぎり金融緩和を続けるというが,いまのような円安が続く限り,実質賃金が上昇することなどあり得ない。

 日本の労働者は見捨てられているといっていい。実質賃金の水準を維持するというごくささやかな願いですら顧みられることがないのだ。

≪円安水準は25%とのこと,つまり,ドルをお持ちの方からすれば,日本では25%引きで品物が買えるということ言うことに……。誰のための円安なのでしょうか?審査で借りることができる企業は既に借りているでしょうし,新たに借金をしようとしている企業がそれほど多くはないはず。にも拘らずの金利政策。国民の生活苦は続くよどこまでも?≫

お読み頂き,有り難うございました<(_ _)>