一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏の「日銀の異次元緩和は賃金を目標にしなかったのが基本的な間違いだ」のコピペです。
経済の知識がほとんど皆無の私ですが,氏の主張は傾聴に値するように思います。なぜなら,一方向からだけでなく他方向から,それも自ら動いて見,そして考察しているからです。また,うやむやになっているアベノミクスを評価する際にも,参考にできそうだからです。
FRBがテーパリング開始を決定
依然、物価が上がらない日本
米国ではFRB(連邦準備制度理事会)が量的緩和の縮小(テーパリング)開始を決め利上げの議論が現実味を増すが、日本では物価がほとんど上がらない。
それはなぜか。
賃金が上がるから物価が上がるのであって、その逆ではない。日本の物価が安いことが問題なのは、それが安い賃金の反映だからだ。
日本の物価を引き上げるには、賃金を引き上げる必要があり、そのためには技術革新を行なう必要がある。
日本銀行の異次元金融緩和は、「賃金」でなく「物価」を政策目標としている点で基本的に誤っている。
賃金が低いから、賃貸料や物価が安くなる
筆者は2005年、米国スタンフォード大学に赴任して、大学の近くの「オーククリーク」という団地のアパートを借りた。2ベッドルームの快適な部屋だったが、新築でもなかったし特別に豪華な建物というわけでもなかった。
その賃料がいまは月50万円ぐらいになっている!
こんなに高くてはもう借りられない。アメリカの物価高がよくわかる。
もちろん、アメリカで高いのはアパート賃料だけではない。
ビッグマックの価格は5.65ドル。日本での価格(390円)をドル換算すると3.55ドルなので、アメリカの価格は日本の1.6倍だ。このように物価が一般的に高い。
では、日本の物価はなぜ安いのか?
仮にいまの東京で、オーククリーク並みのアパートを月50万円で貸し出したとしよう。そうしたところで、誰も借りないだろう。それを借りるだけの給料をもらっていないからだ。
だから、賃貸料を引き下げざるを得なくなる。
これからわかることは、「価格が高くなれば賃金が高くなる」というわけではないことだ。
因果関係は逆で、「賃金が高いから、高いアパートに住める」のだ。
ビッグマックの価格も同じだ。仮にどこかのファストフード店が、アメリカ並みの高い商品を売り出したとしても、人々はそれを買おうとはしないだろう。
つまり、「賃金が安いから、ビッグマックの価格が安くなる」のだ。ビッグマックの価格が問題にされるのは、このためだ。
価格が安いことそれ自体は別に悪いことではない。所得を所与とすれば、価格が安いほどたくさんのビッグマックを買うことができるからだ。
しかし、ビッグマックの価格が安いのは、賃金が低いことの反映だ。だから問題だとされているのだ。
正常な経済では、生産性が上がるから賃金が上昇する。それによって、さまざまなモノやサービスに対する需要が増える。そして物価が上がる。
つまり、すべての基礎に生産性の向上がある。こうした因果関係の理解こそが経済問題を考える際の基本だ。それを間違えてはならない。
結局のところ、つぎのようなことになる。
日本で物価が上がらないのは賃金が上がらないからだ。そして、賃金が上がらないのは生産性が上がらないからだ。生産性を上げるためには、技術開発を促進することが必要だ。
デジタル化はその重要な柱だが、それだけではない。さまざまな面で新しい技術を導入し、生産性を引き上げなければならない。そのような努力を行なわずに、日本の物価を上げることはできない。
コストプッシュ・インフレもあるが、石油ショックなど、特殊な場合だ
ただしそれと違う原因で賃金が上がる場合もある。1970年代のオイルショック時に起きたことがそれだ。
このときには、まず原油価格が高騰した。それによって多くのものの価格が上昇し、それが多くの国で賃金上昇につながった。これはコストプッシュ・インフレーションと言われるものだ。
しかし、これは特殊な事態である。
まず、原油は価格が高いからといって使用量をすぐに減らすことができない特殊な物資だ。それについて、産油国が団結して供給量を削減した。
このように異常な事態だった。しかも70%もの価格引き上げだった。それに合わせて、他の価格を引き上げざるを得なかったのは当然のことだ。
終戦直後の日本でも激しいインフレが起きた。このときには、事実上の日銀引き受け国債を発行することによってインフレが起き、それを追って賃金も上がった。
ただし、このときは、生産設備が戦災で壊滅したなかで生産額を増やしたため、需給が逼迫したのだ。だから、これは単純なコストプッシュ・インフレではない。また金融政策だけでインフレが起きたたわけでもない。
*「続」を予定しています。
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