「あなたには価値がある」という自己啓発書は大間違い!
以下は,PRESIDENT Online提供記事のほぼほぼコピペです。最後に≪私感≫を付け加えました。
※本稿は,中田考『どうせ死ぬ この世は遊び 人は皆 1日1講義1ヶ月で心が軽くなる考えかた』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
心身ともに楽に生きるにはどうすればいいか。イスラーム学者の中田考さんは「朝無理して起きて,満員電車に乗って会社に行くということ自体が間違っている。本来,人間はそういったことに大丈夫なように作られていない。とりあえず仕事をサボって,スマホを捨てて一日中瞑想することで,『自分に価値がないとわかる地点』まで降りてみるといい」という。
足りない頭でムダに考えている若者たち
現代人はとにかく苦しそうに生きています。特に若い人たちは,周りの情報に振り回され,足りない頭で無駄に考えてしまい余計に苦しそうです。
そういう人は,「自分に価値がないとわかる地点」に降りていきましょう。元々人間には価値なんてないのですが,それに気付くことが大事で,その手段の1つがプチ出家です。
本当に出家してしまうと,これまでの生活や家族,友人など修行の妨げとなる世俗の生活をすべて捨てることになりますが,「プチ」なのでいっとき捨ててみるだけでできます。
タイのようなまじめな(上座部)仏教国では成人男子は一生の間に一度は出家し,親からの恩に感謝し幸福を祈るというプチ出家の制度があります。一般的には3カ月ほど出家しますが,短い場合には一週間で済ませる人もいます。
もちろんすべて捨てたってまったく構わないのですが,実行するにはなかなか覚悟が要ります。だからまずはプチ出家でいいと思います。
日本のようなナンチャッテ仏教国だと,一般の旅行者が宿坊に泊まって「滝行」「写経」「坐禅」の真似事をして「精進料理」を食べるプランを用意している寺院は検索すればたくさんありますし,やろうと思えば自分でもすぐにできます。
出家でなくても,とりあえず仕事をサボって,スマホを捨てて一日中瞑想(めいそう)していてもいい。もし会社をサボってそのままクビになるようなら,会社にとって自分は価値のない人間だったことがわかります。
自分は本来ダメな人間だったけれど,会社にいることでそれが見えなくなっていただけだった。それはクビになって初めてわかる。これが大切です。
「自分に価値などない」と気付くことがスタート
大抵の人間は「自分に価値がある」と思い込んでいます。書店に行ったって「あなたには価値がある」と謳う何のためにもならない自己啓発書が並んでいます。
でも,少し考えてみるとわかりますが,その価値の根底にあるのは,金や地位,他者との繋がりだったりします。それがなくなったら,自分の価値自体もなくなります。そういった「自分に価値がないとわかる地点に降りていく」という経験が重要なんです。
イスラームではすべての価値は神に属しますから,人間に価値があるという考え方をしません。一日に5回礼拝をするといった行為によって初めて神に承認されて価値が生まれるのです。価値に気付くためには,まず自分に価値がないことに気付かなくてはいけません。
例えば禅宗の古刹永平寺も公式HPに,
「死のうと思う日はないが 生きてゆく力がなくなることがある そんな時お寺を訪ね,私ひとり 仏陀の前に座ってくる 力わき明日を想う心が出てくるまで 座ってくる」
との詩を掲げてプチ出家を受け入れています。
宿坊の広告には「大本山永平寺で研修を受けた“禅コンシェルジュ”が禅道場での体験はもちろん,柏樹関館内で禅の世界をご案内します。体験の後は大浴場でゆったり。
レストランでは,工夫を凝らした精進料理と越前の銘酒に舌鼓。禅に親しみ,越前のおもてなしに親しみ,こころを癒す体験の宿,それが永平寺 親禅の宿 柏樹関」と書かれています。
プチ出家がもたらす最大の効果
近年ではストレス社会で生きる現代人にとってプチ出家が注目されていて,多くの人々がその魅力に惹かれています,などと言われていますが,要するにナンチャッテ仏教の日本のプチ出家は,仏教の雰囲気は出していますが,自己啓発セミナーと変わりません。
だから,プチ出家がもたらす最も大きな効果は,心身のリフレッシュということになります。日常生活では仕事や家庭の悩み,人間関係などで様々なストレスが溜まるので,プチ出家を行うことで,一時的にそうしたストレスから解放され,自分と向き合い,心身のバランスを整え,寺院で修行の真似事をしてありがたい法話を聞いて,日々の生活に感謝する心や,他者への思いやりを学び,日常生活にもポジティブな影響を期待して,より充実した人生を送ろう,というわけです。
会社や家族や友人などの人間関係からしばし離れることで,会社も家族も仲良しグループも別に自分がいなくても普通に回っていくこと,自分が要らない存在であることを思い知ることがプチ出家の本当の目的でした。
日本のナンチャッテ仏教のプチ出家が本来のプチ出家の目的と真逆の発想であることに気付くことからすべてが始まります。ここまで懇切丁寧に説明しても,ピンとこない,気付けない,という人はここで本書を閉じた方がよさそうです。
落ち込んだり疲れたりしたら,とにかく寝ること
バカな頭で考えたって何も良いことはないし,何も解決しません。でも寝ていれば,どんなに頭の悪い人間でも間違いを起こす心配がありません。おかしな考えに取りつかれたり,人生に幻想を抱いたりすることもありません。
寝ていれば疲れも取れるしストレスも溜まりませんから,落ち込んだり,疲れた~,と思ったりした時にはとにかく寝ましょう。
そもそも朝無理して起きて,満員電車に乗って会社に行くということ自体が間違っています。本来,人間はそういったことに大丈夫なように作られていません。
他人が自分に近づくことを許せる限界の範囲,つまり心理的な縄張りのことをパーソナルスペースといいます。
アメリカの文化人類学者エドワード・T・ホールの分類によると人間のパーソナルスペースは「3.5メートル以上の公衆距離」「1.2~3.5メートルの社会距離」「45センチ~1.2メートルの個体距離」「0~45センチの密接距離」の4つのレベルに分かれます。
レベル4の密接距離はキスやハグができる距離です。この距離に入ることが許されるのは家族や恋人のような親密な人間だけで,そうでない人間がこの距離に入ってくるとはっきり不快を感じます。
「満員電車に乗れる」は教育による洗脳
人間という生き物は手が届く範囲に他人が入ってくれば不快を感じるようにできているのです。満員電車に詰め込まれるなど,本当なら殺し合いになってもおかしくない虐待です。
そんな蛮行が堂々とまかり通っているのは「毎日朝早く起きて,電車に乗って会社に行く」ことが正しいと,教育によって洗脳されているからです。
今の教育は,人間を「早朝の満員電車に乗って働きに行ける」ように作り変えます。人を何かの役に立つ奴隷,機械に作り変えるのが教育なのです。そうやって資本主義を機能させ,維持するのに役立つ人間を作るのが近代教育の本質です。
本能的には逃げたくなるような状態でも,本能を麻痺させて,「毎日時間通りに出社することが偉いんだ」とか「苦しくても頑張ればいつか報われる」とか,そういったことに価値があると刷り込むのが教育の役割になっています。
今すぐ目覚まし時計を捨てましょう。それで遅刻して上司に怒られたって,会社をクビになったって何の問題もありません。むしろ好都合です。スマホのアラーム機能も削除して,寝たいだけ寝て,起きたい時に起きる。それが大事です。
中田 考(なかた・こう)
イスラーム学者,イブン・ハルドゥーン大学客員教授 1960年生まれ。イブン・ハルドゥーン大学客員教授。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。東京大学文学部宗教学宗教史学科(イスラーム学専攻)卒業。カイロ大学博士(哲学)。クルアーン釈義免状取得,ハナフィー派法学修学免状取得。在サウジアラビア日本国大使館専門調査員,同志社大学神学部教授などを歴任。著書に『みんなちがって,みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論』(ベストセラーズ),『宗教地政学から読み解くロシア原論』(イースト・プレス),『13歳からの世界征服』『70歳からの世界征服』(共に百万年書房)などがある。
≪洗脳された親・教員に教育?されれば,どのような人間に育つかは明らかでしょう。大いに共感を覚えました。しかしながら,そのような価値観を否定するものではありませんが,そうでない価値観を否定してもらっても困ります。多様な価値観を(「責任をもって」と注)を付けなければならない悲しさ)自由に表明できる世の中であってほしい≫
お読み頂き,有り難うございました<(_ _)>